楽園
消えない記憶
華の身体は少し細くなった気がした。

「仕事大変か?」

「大変じゃない仕事なんて無いんでしょ?」

「華は強くなったな。」

健太郎はそんな華が逞しくもあり、悲しくもある。

自分の不貞のせいで華の人生を変えてしまったからだ。

「華、隣の男には逢った?」

「どうして?」

「もう俺と別れたんだから自由だろ?」

華は答えなかった。

「ま、逢ってたら俺とこんなとこ来ないよな。」

健太郎が華の身体に触れると華は昔を思い出した。

翔琉とは違う指と舌がなおさら翔琉を思い出させる。

健太郎は華とは違う女を抱いてる気がして
少し戸惑った。

他の男に変えられた華の身体が健太郎を寂しくさせるけど
妙にそそられた。

終わってみるとお互い複雑な気分だった。

「帰るね。」

「泊まってけよ。どうせ帰っても一人だろ?」

「ミミがいる。」

「そうだった。ミミは元気にしてるか?」

「うん。」

「華、また来月な。」

「うん。」

健太郎は一人残されたベッドで眠る。

一度温もりを覚えると
一人になった時はもっと寂しくなった。

それは華も同じで身体に残った健太郎の温もりが
なかなか消えない。

忘れようと思って健太郎と寝たのに
逆に翔琉に愛された記憶がよみがえって
華をもっと寂しくさせた。

そして寂しさを埋められずに華は健太郎と会うたび抱き合った。

一度そうなってしまうとそれが当たり前になって
華は再び健太郎と暮らし始めた。

一緒に暮らしても結婚してるときとは全然違った。

各自自分の事は自分でするし、
お互い仕事もあるので夜だけが二人の時間だ。

ただベッドを共有し寂しさだけを埋める。

そこにあるのは愛じゃなくて情だけだった。

情だけで肌を合わせたところで寂しさは増すばかりだった。


そしてそんな華に再び翔琉に会う機会がやって来た。

翔琉がまた華の会社の仕事を引き受けたのだ。

華が翔琉の家に行くと
そこには夏希がいた。

「あら瀧澤さん、久しぶりですね。」

夏希はすっかりこの家に馴染んでいた。

「アタシ、翔琉と結婚するんです。
未来の主人を宜しくお願いしますね。」

笑顔で話す夏樹を見て華は正直ショックだった。

翔琉が結婚すると思ってなかったから。

部屋に入ると翔琉が絵を仕上げていた。

「結婚するんだね。」

「一人が寂しくなって…
華に逢ってから…寂しくなった。」

翔琉も華と同じだった。

「アタシ…またね、健ちゃんと住んでる。」

「健ちゃんて前のご主人?」

「うん。アタシも翔琉に逢ったら寂しくなっちゃって。」

「そうか…」

「うん。」

お互い思いあってるのに
どうにもならなくて苦しかった。

翔琉の描く女は相変わらず華だった。

それが華をまた切なくさせた。

「…華はそれで幸せなの?」

「…翔琉は?」

翔琉は答えなかった。

華を見つめ気持ちを抑えられずにキスをした。

いけないことだとわかっても止められなかった。

夏希の足音が聞こえて華は離れた。

なにも知らない夏希はとても幸せそうだった。




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