楽園
空虚な情事
「この絵、やっぱり華ちゃんに似てる。
華ちゃんに逢って先生もビックリしてなかった?

華ちゃんもこういう時こんな顔するのかしら?」

編集長は翔琉の絵を見てそう言った。

華は翔琉とのキスを思い出していた。

また同じ事を繰り返すのは怖かった。

健太郎は以前のように束縛しなくても
翔琉には夏希がいる。

あんな幸せそうな笑顔を夏希から奪いたくなかった。

「華…何かあった?
浮かない顔してるな。」

健太郎が帰ると華はソファで一人飲んでいた。

華の隣に座り一緒に飲み始めた。

「仕事で嫌なことあった?」

「まぁね。」

華は何となく健太郎の肩に寄っ掛かりたくなった。

頭を肩に乗せると健太郎は少しビックリした。

「華が甘えるなんて珍しい。」

「健ちゃん、アタシのこと好き?」

「好きじゃなきゃ一緒に暮らせないよ。」

「何があったの?」

「ううん、何か健ちゃんが居て良かったなぁって思ってね。」

「華…俺たちやり直そうか?」

「…うん、それもいいかもね。」

華の心無い返事が健太郎を少しずつ傷つけてる。

健太郎はソファの上で空っぽの華を抱く。

華はかすれた声で健太郎の名前を何度も呼んだ。

華は何をしても翔琉が離れなかった。

そして健太郎は華を抱く度寂しくなった。



次の日から健太郎は部屋に帰ってこなくなった。

華はその理由がわかっている。

また健太郎を傷つけたと思った。



家に戻れない健太郎は街でクルミという女と知り合った。

ふらっと入った風俗店で健太郎が選んだのがクルミだった。

クルミはどこか華に似ている。

パッとしなくてそこそこの顔とスタイルだが
胸だけは大きかった。

健太郎はそこに毎日のように通った。

健太郎は奉仕するクルミが華と重なって
2回めからそこでクルミと話すだけで
特にサービスを求めなかった。

「また来てくれたの。」

「行くとこもないしね。
今日も話相手になってくれるだけでいいよ。」

健太郎の寂しさをクルミは理解できた。

クルミは田舎から出てきて
悪い男に騙されて借金を背負ってしまい
この仕事を選んだ。

それからずっと一人でここで働くだけの毎日だった。

「ウチに来る?」

「え?」

「泊めてあげようか?」

「いいの?」

「うん。行くとこ無いんでしょ?」

クルミはなぜか健太郎に惹かれた。

健太郎を孤独から救ってあげたいと思った。

そして自分もこの孤独から抜け出したかった。

クルミの部屋は6畳ほどのワンルームで
二人で居ると狭いくらいだ。

それでも健太郎はその場所が落ち着いた。

他人の温もりを感じる距離…。

手を伸ばせば抱きしめられる距離に華によく似た女がいる。

「こんなに簡単に客とか泊めていいの?
もしかしてここでそういう商売してるとか?」

クルミは少し腹をたてて
「人を泊めるのは初めてだよ。
それに泊めるだけだから。」
怒って言った。

「金払ったらやらせてくれるの?」

クルミは健太郎の頬を叩いた。

健太郎は顔色1つ変えないでクルミを押し倒した。






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