楽園
蛇と女
翔琉はテーブルで絵を描きあげていた。

裸婦と大蛇の絵だった。

蛇と女が絡み合うというその絵は
実にエロティックである。

そしてその絵に描かれてる女はまたしても華だった。

「どうかな?」

3年ぶりに逢ったというのに挨拶もなく、
翔琉は自分の絵の世界に浸っている。

まるで魂を込めて描いているような翔琉の姿は
昔には無い気迫があった。

女の身体に絡んだ蛇はまるで翔琉そのものだった。

いつまでも華の心に絡み付き縛って離さない男…

「凄いですね。

なんかこの蛇は今にも動き出しそうで…
怖いくらい迫力があります。」

「これは俺と華だから。」

翔琉が華に近づいてきた。

「華、どうしてあの日来なかった?」

華は答えなかった。

健太郎の事を話したら翔琉はまた自分を責めるだろう。

「ごめんなさい。」

翔琉は華をソファに座らせた。

「だけどまさか逢いに来てくれると思ってなかった。
忘れてはいなかったみたいだね。」

華はこの三年、翔琉を忘れようと生きていたが
頭での記憶は薄れても
心は1日だって忘れた事がなかった。

それでもとても逢いたいとは口に出せない。
出すわけにはいかないのだ。

「実は…仕事で来たんです。
編集長に私に連絡が欲しいって言ったんですよね。」

「だから敬語なのか…
やめてくれないか?昔みたいに話して欲しい。」

「それでですね、ホントに厚かましいお願いなんですが…
春画を一枚だけ描いて頂けませんか?

先生のような人がウチみたいな成人誌に描いて下さるとは思えませんが…

この絵のモデルとしてお願いしたいんです。」

翔琉は暫く黙っていた。

怒ったかも知れない…そう思って華はその話を引っ込めた。

「無理ですよね。解ってました。

どうしてもお願いしてこいって言われて
ダメだと解ってましたけど…

ホントに申し訳ありませんでした。」

席を立とうとする華に翔琉は言った。

「ここに来たのは絵を描いてもらうためか…」

翔琉はショックだったが
そんなことで華を諦められるほど簡単じゃなかった。

翔琉はそんな事を言って自分を傷つける華を貶めたくなった。

「いいよ。描いてやる。
その代わり条件がある。

俺と寝てくれたら描いてあげるよ。」

華は驚いて翔琉を見た。

「今ここで寝てくれたら描いてやるよ。

どうする?」

華は怖かった。

どんな形でも翔琉と情を交わしたら
また何かが変わってしまう。

もう華には健太郎を捨てることは出来ない。

「ごめんなさい。絵は諦めます。」

部屋を出ていこうとする華を翔琉は引き留めた。

「もう俺とは寝るのもイヤか?」

華は悲しそうな翔琉の顔を見て部屋から出られなくなった。

「翔琉…ごめん。そうじゃないの。
私だってずっとあなたを思ってた。

でも…状況が変わってしまった。

あなたに抱かれたら私はもう戻れなくなる。

だけどそれは許されないの。」

苦しむ華の顔を見て翔琉は自分が言ったことを後悔した。

そしてさっき描いた蛇と女の絵を華に渡した。

「これを持っていけよ。
これは華のために描いた絵だから。」

華はそれを受けとると部屋を出てエレベーターの中で泣いた。

この蛇のように翔琉が自分に絡んで
いっそ首でも絞めてもう2度と愛せないようにしてくれたらいいのにと思った。

< 18 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop