【短編】ゆりゆり【百合】
男は心底気持ちが悪い。
どうしたら男を好きになれるものか。
生まれてこのかた、可憐な女の子にしか心がときめかなかった私には男の何が魅力的なのかわからない。
「帰って」
先ほどより大きい声で怒気を強めて言った。
「泣いてるの?」
海斗は心配そうに私の頭を撫でた。
「何かあった?友達と喧嘩した?」
「好きな人にふられた」
私が答えると、海斗は「あははは」と笑って、手を叩いた。
「俺が最近連絡してなかったから?」
海斗は私が冗談めかして文句を言っていると思ったらしい。
本当に幸せな脳みそをしている。
「海斗のことじゃないよ」
「別に好きな人できたの?」
海斗に聞かれて、どう答えようか迷う。
この際だから別れてしまいたい。
婚約状態の今でも息が詰まりそうなのに、結婚して同居なんてしたら本格的に死ぬかもしれない。
「ずっと前からいたよ」
「そっか…俺より好きなの?」
「海斗のことはそもそも好きじゃなかったよ」
「あははは、そっか、そうだよね」
海斗は笑い飛ばして、少し黙った。
私は別れ話を期待して時間が流れるのを待つ。
「その人って、俺の知ってる人?」
「私から話したことはないし、海斗の知らない人だと思うけど、生活圏は同じだし、会ったことはあるかもね」
「まだ片想いなの?」
「微妙なとこ、押せばいけそう、でもあんまり押したくない」
「そっかあ…それってさあ…」
海斗は私を見て、また目を逸らした。
「それって、女の人だったりする?」
勘が鋭いな。
それしか頭に浮かばなかった。
ばれたことに驚きはないけど、海斗も意外と観察してるんだなって感心した。