【短編】ゆりゆり【百合】
「なんか、ごめんね、海斗には最初から1ミリも可能性なかった」
私は突っ伏したままそう言う。
「知ってたよ、最初から」
海斗は立ち上がって、飲み物を取りに行った。
「婚約の話した時も、スムーズに受け入れたけど、全然嬉しそうじゃなかったもんね」
「ごめん」
海斗が台所から戻ってきて、ベッドの前で立ち止まった。
バシャッ
頭の上に水が落ちてきて、驚きすぎて動けなかった。
少し間を置いてから顔を上げると、空のコップを持った海斗がいた。
「ごめん、これくらいしないと許せない」
海斗は言いながら涙を流した。
「俺がどれだけきーちゃんのこと好きか知ってる?」
「うん」
「俺がきーちゃんの彼女のこと知らないと思ってた?」
「うん」
「俺は今でも好きだよ」
「ごめんね」
海斗の言葉に短く返して、6年付き合って婚約までした恋愛が終わろうとしているのに、一粒も何も込み上げて来ない自分にさすがに嫌気がさす。
「きーちゃんは好きでもない男とセックスしてたってこと?」
「恋人としての通過儀礼でしょ」
「そうやって他の男ともやってきたの?」
「私がどれだけ男嫌いか知ってる?なんで好きでもない男と長続きしたのか考えてよ、関わる人数を最小限にしたいの」
「でも俺が初めてじゃないだろ」
「私の初めては義兄からのレイプよ、文句ある?」
海斗は私の言葉に絶句した。
このことを話すのは、水晶についで二人目。
何歳のときだったか明確に覚えてるわけじゃない。
医師にはストレス性の記憶障害が出てると言われた。
私には小学校3年生あたりから中学入学までの記憶がほとんどない。