クールな御曹司と愛され政略結婚
「ご覧の通り、私はアラサーと呼ばれる世代で、仕事を持ち都会暮らしをする女性で、新米ですが既婚で、堅実に生きたいと考えている保守的な頭の持ち主です。かなり有効なサンプルであるのを自認しています」

「発売されたら買うって言ってたもんな」

「予約してでも買いますね、というより二年前のモデルを今も使わせていただいています」



さすが、灯が入れてくれた合いの手は、絶妙のタイミングだった。

私がここの商品を愛用しているのは事実だけれど、それをクライアントに伝えるとなると案外難しく、言い方や時機を間違うとただの媚びととられ、不快な顔をされることもある。

今回は大成功。

場はすっかりくだけた雰囲気になり、クライアントたちはにぎやかに、同僚同士の会話を始めている。

この空気を作り出せたプレゼンで、いい結果が出なかったことはない。


私たちも"チーム"なのだ。

ひとつの制作にあたる間は、家族と言ったって過言じゃないくらいの密な関係を築き、なんでも言い合い、クライアントのために力を出し尽くす。

それをわかってもらうのに、ダブルプロデューサーという体制はとてもいい。

私と灯は掛け合いでプレゼンをすることも少なくなく、それはほとんどの場合、こうした笑いに満ちたオープンな雰囲気を作り上げる。

灯はこれを、私と組んだことの副産物と呼んで、重宝してくれている。



「もらったんじゃないですか、これ」

「どうだろうな」



帰り道、ディレクターたちの顔も明るい。

プレゼンで失敗したら、彼らのこれまでの努力も無にしてしまうわけで、メインスピーカーである灯と私の責任は重い。

なんとか役目を果たせた解放感で、私も充実していた。


この案件は欲しいのだ。

まず額が大きいし、次のモデルチェンジまで制作会社を変えないという約束がされているので、取れれば継続的な収入源になる。

これまで広告代理店が独占してきた、このメーカーのコンペの参加権を灯が取ってきたときは、社内が湧いた。

誰が担当するかでビーコン内でもコンペが開かれ、そこでも灯が挑戦権を勝ち取ったのだ。



「あれ」



切っておいた携帯に電源を入れた瞬間、メッセージが入った。

それを読み、私は灯に声をかけた。
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