クールな御曹司と愛され政略結婚
「ごめん、寄るところできたから別ルートで帰る」

「了解。もし今日の件でお前のほうに連絡入ったら、すぐ共有してくれ」

「うん」



「お疲れさまでしたー」と晴れやかに笑うディレクターたちに手を振り、駅とは逆方向に向かった。


一樹先輩は、指定してきたカフェの奥の席に、ひとりで座っていた。

私を見つけると、PCを閉じて笑いかける。



「ごめんね、疲れてるとこ」

「ううん、なに?」

「特に話があるわけでもないんだけどさ」



口の端に煙草をくわえて、はいとメニューを渡してくれる。

私は迷わず、一番大きく写真が載っているスフレパンケーキに決めた。

水を持ってきてくれた店員さんにオーダーし、顔も拭きたいくらいの気分で冷たいおしぼりを堪能していると、先輩の探るような目つきに気づく。



「野々原となにかあった?」

「どうしてそんな鋭いの?」

「やっぱり。なんか空気、変だったもんなあ」



スーツは着てもノータイ主義の灯に対し、先輩はきっちりネクタイ姿だ。

連れているメンバーがあんな感じだから、先輩だけでも堅さを演出しておきたいのかもしれない。



「唯子ちゃんはともかく、野々原があんなダウナーなオーラ出しちゃってるの、珍しいじゃない」

「えっ、そんなの出てた?」

「出てたね。隠してはいたけど」



さすが古くからのつきあいは、だてじゃない。

今の私はたぶん、負い目が邪魔をして、そのあたりを読み取ることができていないのだ。



「姉が戻ってきたの」

「要子が?」



運ばれてきたアイスコーヒーを飲みながらうなずいた。
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