クールな御曹司と愛され政略結婚
先に立って歩く灯の背中を見ながら、私の頭の中はぐるぐると大混乱していた。


話すってなにを?

お姉ちゃんのこととか?

私たちのこととか?


家に帰ってからの行動を約束するなんて、初めてだ。

お互い帰る時間も寝る時間もまちまちで、実家から戻ってきてこっち、何度かあった夜も、おやすみを言い合ったことなんて一度もない。

私、灯と全然家族になれていない。

これじゃ姉に"余地がある"なんて言われて当然だ。


怖い。

話したら、なにかが決定的になってしまいそうで、怖い。





「灯、ちょっと来い」



夕方、今日できる仕事をあらかた終えて、明日の準備をしたら帰ろうか、という雰囲気のところに、社長がやってきた。

要するに灯のお父さんだ。

創業当初は現場仕事もしていたと聞くけれど、今は経営に専念していて、普段は社長室にいる。

若手にはあまり彼を見慣れない社員も多く、フロアは軽くざわついた。

灯は「なに?」と怪訝そうにしながらも、従順に仕事の手を止める。



「お前、今日プレゼンに行ったか」

「行ったよ、シリーズ広告の」

「そこの営業本部長殿が、お前たちの提案をいたくお気に召したらしい。内々にだが、うちに決まりそうだという話が入ってきてる」



私と灯は顔を見合わせ、思わずぱちんと手のひらをぶつけ合った。



「で?」

「別件で、もともと今日はあそこの社長と会う約束でな。いい機会だからお前を売り込んでやろうと思う。一緒に来い」

「何時?」

「15分後に出る」
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