クールな御曹司と愛され政略結婚
『すごいでしょ』

「すごい」

『ごめんね、遅くに。昼間あんまりフォローできなかったからさ、気になって』

「ううん、ありがとう」

『パンケーキは代わりに食べといたんだけどね、野々原とは仲直りできた?』

「それが…」



すれ違いの状況を説明すると、『あらら』と先輩が同情的な声を出す。



『かわいそうに』

「今日も、何時になるかなあ…」

『色っぽいお店につきあわされたりしたら、朝帰りだろうねえ』

「男の人って、なんでああいうの好きなの?」

『家で嫁に相手にされてないんじゃない?』



なるほど。

寝室のベッドに座って、携帯片手に髪を拭く。

結婚式の前に美容院に行ってから、早くも一か月近くが経過しようとしていると気づいて、ちょっと愕然とした。

私と灯、なにも進んでいないんだけれど、こんなんでいいんだろうか。



『もう寝るの?』

「うん、コンペも正式にはまだ結果待ちだし、小休止」

『うちに来る件さ、いつまででも待つから、ずっと考えててね』

「気が長いね」

『ヘッドハンティングは、焦ったら負け』

「先輩がビーコンに来ちゃえばいいのに。灯と一緒に仕事できるよ」



からかってみると、先輩は本気で嫌そうに『冗談じゃないよ』と返してきた。



『あんなの、社名からして野々原のための会社じゃないか。俺を入れたきゃせめてロゴを変えるんだね』



不遜なんだかただのわがままなんだかわからない物言いに笑ってしまう。

ビーコンのロゴは、灯台のイラストがあしらわれたデザインなのだ。

社名自体、灯台の灯りを表す英語"ビーコン・ランプ"から来ていて、なにもない場所を我々が照らすのだという自負と、たぶん単純に、社長の親バカが入っている。

それでも、将来的に灯に継がせるとは限らない、と明言しているのだから、どんな意地っ張りなのよ、とあきれてしまう。
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