クールな御曹司と愛され政略結婚
『ま、坊ちゃんがお戻りになったら、コンペの勝利おめでとうって伝えて』

「ありがと」



携帯をサイドテーブルに置いて、横になった。


ゼロに行く。

灯から離れる。

もしかしたら、自分を成長させる手段としては、ありなのかもしれない。

でもそれは、ただの逃げだろうか。

灯に甘えられなくなったから、今度は一樹先輩に甘える気なんだろうか、私は。

天井のライトがまぶしくて、腕で顔を覆った。


灯。

灯の気持ちを知りたい。



──暗闇の中で、ふと意識が浮上した。

ぼんやりとあたりの気配を探って、どうして目が覚めたのかわかった。

灯が帰ってきている。


寝ている私に気を使ってか、音を殺しているけれど、手に取るように動きがわかる。

鞄を書斎に置いて、バスルームへ。

少したって、始まる水音。


それから私はまたうとうとして、寝室のドアが開く音ではっと覚醒した。

何度言っても裸でベッドに入りたがる灯が、また部屋着を脱いでいる。

灯に背中を向けたまま、目をつむって、寝たふりを続けた。


スプリングがたわんで、灯が上がってくる。

たわみがすぐ近くまでやってきたので、あれ、と思いつつも目を閉じていると、ふわりと髪になにかが触れた。

灯が、頭をなでている。

優しい手つきで、私を起こさないように、そっと。


頬に温かい感触が降って、キスをされたとわかった。

灯が手をついた、私の顔のすぐ前のマットが深くたわんで、もとに戻った反動で私の身体もわずかに弾む。


広いベッドは、距離を開けたまま眠れてしまう。

灯は身体が触れ合わない位置まで離れると、私に背を向けて眠りについた。


たまらなかった。
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