クールな御曹司と愛され政略結婚
あれっ、と思った。

もしかして、灯が言っていたのって、これ?


なにをどれだけ考えたとしても、結婚しようと最後に決断させたのは、"欲しい"という気持ち。

それさえあればいいだろって、そういうこと?

つまり、灯もそうだってこと?

欲しいと思ってくれていたってこと?


一度気づいてしまうと、なにをあんなに疑心暗鬼になっていたのかと、自分を顧みて呆然としてしまう。

そんな私を、姉が楽しげな顔で無遠慮に見つめた。



「いいタンカだったがね、せっかくなら本人に向けて言ってやりなよ」



くいと顎で下のほうを指す。

そこには座り込んだままの灯が、まだ口元を手の甲で拭いながら、目だけで私を見上げていた。

視線がかち合うと、戸惑ったように目を大きくして、それから逸らす。

手からのぞく口元は、照れくささをこらえきれないみたいに笑っていた。


ねえ、なによ、その反応。

こっちまで照れるから、やめてよ。



「なっ、嬉しそうだろ」

「お姉ちゃんがいばるところじゃない」

「誰のおかげで切れたタンカだと思ってるんだよー」

「私です」



だまされないぞ。

調子よく自分の手柄にしようとしているけれど、姉の本意は、あくまで私をからかう目的だったのは間違いない。

頑なな私を気にも留めず、姉はねえねえと今度は私に絡みつく。



「姉妹喧嘩しよう、唯子」

「今から?」

「そう、私たち、やったことないだろ」

「今日、会社なんだけど」

「あちゃあー」



そっかあー、とわざとらしく額に手を当ててみせる。

絶対わかっていて突撃してきたくせに!
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