クールな御曹司と愛され政略結婚
はじめてのひと
「結婚するらしいぜ、俺たち」
灯が、笑いをこらえきれない様子でそう言ってきたのは、去年の末。
仕事納めまでもうひと踏ん張り、とデスクで仕事をしていた私は、区切りのいいところまでキーを叩いてしまってから「え?」と聞き返した。
「結婚? 誰と誰が?」
「俺と唯が」
ひと続きの巨大な白いテーブルを、使う人数で区切って使っている制作部で、私と灯の席は隣同士だ。
スペースを区切るパーテーションもない。
椅子に座ったまま寄ってきて、灯は悪だくみをするように声を低めた。
「親父たち、元サヤに収まるらしい」
「えっ、仲直りするの、どこ情報?」
「秘書室」
「………」
そんなところから情報出ちゃって、うちの会社、大丈夫なの?
灯が人の悪い笑みで、くつくつと喉を鳴らす。
「心配するな、俺が当然知ってるもんと思って漏らしたんだろ」
「もしくは、社長の息子の点を稼ぎたかったのかもね」
「妬くなよ、俺が一番点を注いでんのは、唯だぜ」
会社じゃなければ、ぐりぐりと頭をなでられているところだっただろう。
机に頬杖をついて、にやにやとこちらを見る幼なじみは、昔からこうやって、私をからかうのが好きだった。
「なに、結婚って言った?」
向かいのほうから面白がる声が飛んでくる。
このデスクはプロデューサークラスの人間が集まっている場所で、若手からベテランまでみんな、自分の裁量で監督と手を組み、予算を使い、制作を統括する権限を持っている。
灯はその中では、近年の実績としてはトップクラス、立場としては中堅に差しかかろうとしている若手ってところだ。
「それほんとなら、業界ニュースじゃない?」
「いや、でもいくらうちのアホ親父でも、持参金代わりに息子差し出すとか、そんな時代錯誤なまねしないでしょう」
「野々原が持参金なの? 佐鳥のほうじゃないの?」
「私が持参金になるなんて、思ってくれてるかしら、あの父親」
「まあそもそもの発端は、親父が優秀な人を勝手に連れてっちゃったことなわけで、頭下げるとしたらうちですよ」
「いやいや、ついてくってことは、代理店の仕事に不満があったってことなんだから、そこはお互いさまだよ、本来なら」
灯が、笑いをこらえきれない様子でそう言ってきたのは、去年の末。
仕事納めまでもうひと踏ん張り、とデスクで仕事をしていた私は、区切りのいいところまでキーを叩いてしまってから「え?」と聞き返した。
「結婚? 誰と誰が?」
「俺と唯が」
ひと続きの巨大な白いテーブルを、使う人数で区切って使っている制作部で、私と灯の席は隣同士だ。
スペースを区切るパーテーションもない。
椅子に座ったまま寄ってきて、灯は悪だくみをするように声を低めた。
「親父たち、元サヤに収まるらしい」
「えっ、仲直りするの、どこ情報?」
「秘書室」
「………」
そんなところから情報出ちゃって、うちの会社、大丈夫なの?
灯が人の悪い笑みで、くつくつと喉を鳴らす。
「心配するな、俺が当然知ってるもんと思って漏らしたんだろ」
「もしくは、社長の息子の点を稼ぎたかったのかもね」
「妬くなよ、俺が一番点を注いでんのは、唯だぜ」
会社じゃなければ、ぐりぐりと頭をなでられているところだっただろう。
机に頬杖をついて、にやにやとこちらを見る幼なじみは、昔からこうやって、私をからかうのが好きだった。
「なに、結婚って言った?」
向かいのほうから面白がる声が飛んでくる。
このデスクはプロデューサークラスの人間が集まっている場所で、若手からベテランまでみんな、自分の裁量で監督と手を組み、予算を使い、制作を統括する権限を持っている。
灯はその中では、近年の実績としてはトップクラス、立場としては中堅に差しかかろうとしている若手ってところだ。
「それほんとなら、業界ニュースじゃない?」
「いや、でもいくらうちのアホ親父でも、持参金代わりに息子差し出すとか、そんな時代錯誤なまねしないでしょう」
「野々原が持参金なの? 佐鳥のほうじゃないの?」
「私が持参金になるなんて、思ってくれてるかしら、あの父親」
「まあそもそもの発端は、親父が優秀な人を勝手に連れてっちゃったことなわけで、頭下げるとしたらうちですよ」
「いやいや、ついてくってことは、代理店の仕事に不満があったってことなんだから、そこはお互いさまだよ、本来なら」