クールな御曹司と愛され政略結婚
「くそっ」

「まあまあ」



廊下に出ても、灯はまだ虫の居所が悪かった。

一から会社を起ち上げてのし上がったお父さんが、同じことをしようとしている一樹先輩を評価するのは当然で、そこに灯が疎外感を抱くのもまた当然だ。

二世なのは灯のせいではないのに。


大丈夫、灯には灯の立場があるし、そこで確実に評価を得ているよ。

そう伝えたくて、ぽんぽんと背中を叩くと、力が入りすぎていたことに気づいたのか、灯がふっと息を吐いた。



「やるか」

「そうだね」



とにもかくにも、再提案の準備だ。

期日は二週間後。

スタッフたちに状況を説明するため、フロアへ急ぐ途中、灯が私の肩を、男同士がするみたいに、ぐっと力強く抱いた。





夕方、ディレクターも含めて、作戦会議という名の飲み会を開いた。

クライアントからのフィードバックは、方向性は非常に合っているので、シリーズにしたときの具体的な案を見せてほしいというものだった。



「純粋にサンプルのバリエーションを見せようとすると、時間が足りない」

「前回のプレゼンと同じクオリティのものは、無理ですね」

「動画はあきらめて、グラフィックを作り込んだほうがいいかもな」



この後また会社に戻るので、お酒はほどほどだ。

二週間というとけっこう時間がありそうだけれど、戦略を決めたりプレゼンにまとめあげたりという時間を引くと、制作にかけられる日数は限られている。

とにかく動きだすのが先決、というのは全員の認識だった。


ふたりでマンションに帰ったのは、日付も変わるころだった。



「あ」



宅配ボックスに荷物が届いていたので、なにかと思ったら、ウェディングプランニングの会社からだ。
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