クールな御曹司と愛され政略結婚
まあ、それは、なんていうか、ちょっと別の話だ。

そんな都合のいいことを考えていると、見透かしたように灯がますますむっとした顔になり、私は慌てた。



「あの、要するに、してもらって嬉しいってこと」

「これっていうタイミングがないんだよ。家出るのも帰るのも一緒だし、別になるときはどっちかが寝てるか不在のときだし」



言われてみればそうだ。



「今、これっていうタイミングだった?」

「いや、単に、昨日要子にされたのを思い出したから」

「え…」

「最後が唯じゃないとか、変だろ」



灯の顔は大まじめで、冗談を言っているふうでもない。

甘い雰囲気に持っていこうとしているようでもない。

本気で"それは変だ"と感じていて、だからその状態を修正したとでもいうような。


もしかしたら今朝のも、同じ理由による、無意識下での行動なのかも。

棒並みにまっすぐって、一樹先輩が言っていたっけねえ、となんともいえない気分で思い出した。

灯が私の肩を、迷いなく叩く。



「よし、今日は寝よう。明日から相当ハードだぜ」

「そうだね…」



灯って、案外こういうところ、きっぱりと仕事優先なんだよなあ。

小さくため息をついたのは拾ってもらえず、灯は歯を磨きにさっさと洗面所のほうへ行き、私がもうしばらくアルバムを眺めてから、よっこらしょと後を追う頃には寝室で寝ていた。


 * * *


「あっ、灯さん、たいへんです!」



翌朝出社するなり、木場くんが飛んできた。

真っ青な顔で、灯の周りを「あの」とぴょんぴょん跳ねている。

言葉が出ないらしく、灯はそんな彼に「なんだ?」と眉をひそめつつデスクに向かった。


そこには、髭が乱れ、いかにも徹夜明けといった雰囲気の神さんがいた。

灯を見ると、気づかわしげな顔になる。
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