クールな御曹司と愛され政略結婚
年鑑を読んでいた灯が「あれ」と首をひねった。



「この広告、神さんが創現時代に手掛けたやつじゃないか?」



そう言って指さしたのは、文字だけでさらっと説明してある、かなり昔の作品のひとつだった。



『ああ柘植ね、うん、今でも連絡とってる。お察しの通り、隠岐の師匠だよ。ビーコンに入る前、弟子入りして使ってもらってたんだ』



神さんが、電話でこともなげに言った。



「でも、作風だいぶ違いますよね?」

『柘植がちょっと前に変えたんだよ。昔は今の隠岐みたいなトーンで作ってた』



スピーカーで一緒に聞いている灯の目が、鋭く光った。


 * * *


会社に戻ったときも、まだ7時前で、フロアにはほとんどの人がいた。



「お、野々原、佐鳥、早かったな」

「神さん、すみません、いろいろと」

「柘植なあ、連絡とってみたんだが、間の悪いことに、この土日は北海道でロケらしく、今移動中だと。当然、明日も明後日もまとまった時間はとれない」

「俺、行きます」



迷いなく灯が言った。

神さんが短い髭をなでて、メモを差し出す。



「そう言うと思った。それロケ場所と宿泊先、柘植の番号な」

「灯、私も行く。向こうで別行動とれたほうがいいでしょ」

「いや、唯は残って、こっちでバックアップをしてくれ」



ぐいと肩を押し戻された。

灯、大丈夫なの。

あれだけショックを受けていたじゃない、平気なの。
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