クールな御曹司と愛され政略結婚
私の心配を笑うように、灯が肩に置いた手に、ぐっと力を込めた。



「行ってくる」



朝の取り乱しようが嘘のように、その目は可能性を見つけて、まっすぐ力強くきらめいている。

私はうなずいた。



「気をつけてね」

「神さんも、ありがとうございました」



フロアを飛び出していく灯に、神さんがひらひらと手を振った。

見送る私を、横目でちらりと見る。



「よく、ついていくってごねなかったな」

「…留守を預かるのも、女房の務めなので」

「その通りだ。柘植がOKしたとして、その影響でこれまでかかわっていたスタッフ総入れ替えの可能性もある。そこ説得して回るのは佐鳥の仕事だぜ」

「はい」



灯、がんばって。

がんばってね。


 * * *


日曜日の昼間、私はそろそろ家に食料や食材を用意しておかないと、今後の激務に対応できないと思い、車で買い出しに出た。

消耗品もたっぷり補充しようと、郊外のショッピングセンターに行く。



「あれ、唯子?」

「わっ、お姉ちゃん!」



広々した駐車場に灯の車を停め、建物に向かう途中でまさかの相手に会った。

この少しの距離でも日傘をさす女性が多い中、姉は白い肌を堂々と日にさらして、つややかな髪と明るい色のブラウスをはためかせている。



「ちょうどよかった、今日あたり唯子の家に押し掛けようと思ってたんだよね」

「ほんとちょうどよかった。絶対やめてね」

「これ、プレゼントしようと思ってさー、お宅、玄関が殺風景だったろ、こういうの、ちょっと貼るだけで空間が引き締まると思わない?」
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