クールな御曹司と愛され政略結婚
抱えていたロール状のものを広げてみせる。

品のいいベージュの、砂地の壁紙だった。



「いいだろ」

「…いいね」



こういう淡い色なら狭苦しくもならなそう。

確かに殺風景で、花でも飾ろうかと思っていたところだったのだ。

じゃなくて。



「車の鍵貸して、積んどくから」

「お姉ちゃんも乗る気でしょ」

「当然」

「ダメ! 今日は私、急いで帰って待機してないといけないの」

「灯も遊んでくれないかなあ?」

「あっちこそそれどころじゃなくて、今北海道。灯、正念場なの。ライバル会社にね、ちょっとないでしょってことされちゃって…あ!」

「あ?」

「お姉ちゃん、海堂一樹先輩って覚えてない? 灯の同級生の」

「覚えてるよ、人生なめた感じの小僧だろ」

「そのライバル会社がゼロっていってね、一樹先輩の会社なんだよ」



「一なのにゼロとはこれいかに」とまったく興味なさそうな姉に、こんなことをしている場合じゃないと我に返った。

壁紙を受け取り「これ、ありがとう」と心からのお礼を伝える。



「貼ったら写真送るから、連絡先ちょうだい」

「気をつかわなくていいよ、行って見るから」

「いったい今どこに住んで、なにしてるの?」

「女の武器は神秘性だぜ」

「十分謎めいてるよ、お姉ちゃんは」



「そうか?」と嬉しそうに笑う姉に追及をあきらめ、買い物を急ぐことにした。



「じゃあ、行くね」

「灯の成功を祈ってるよ。私が応援した試合で、灯が負けたことはないんだ」

「伝えとく」



ほんとに仲よかったんだな、とちくちくした胸の痛みを感じつつも、今の灯にはそんな験担ぎすらありがたい。

灯、がんばれ、とエールを送りながらショッピングセンターに向かった。
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