クールな御曹司と愛され政略結婚
「…なるほど、つまりその柘植監督の立場を、社内で悪くしたくないんだね」

「勝手な話なのはわかってる。本来はうちの内部で済ませる話だし。でも彼の力を借りたいんだ、どうしても」

「確かに勝手な話だね、いくら灯くんでも、他社の制度に首を突っ込む権利はないよ、わかってると思うけど」

「お父さん」



父の言い分は正しいけれど、冷たい。

灯だってそんなこと百も承知だからこそ、こうしてお願いに来ているんじゃないか。

そのくらい、わかるでしょう!



「唯は黙ってろ」



食ってかかろうとした私を、灯が制し、父に相対して畳に手をついた。



「おじさん、佐鳥専務として聞いてほしい。生意気を承知で言うよ、創現のその制度は窮屈だ。従業員なんだから、社内の仕事を優先すべきなのは当然だ。でもそれでも社外とやりたいってクリエイターが後を絶たないのは、社内では面白い仕事ができないからじゃないの」



父の目が鋭くなったのを見ても、灯はやめなかった。



「オープンにすればいい。社内と社外で競わせて、クリエイターの取り合いをささせればいい。そうすれば自然と創現内に、挑戦的で面白い企画が生まれるはずだ。代理店の仕事はつまらないなんて、言わせないであげてよ」



一息にそこまで言うと、頭を下げた。



「柘植さんの件は、申し訳ないと思います。でも彼がいないと今、俺たちは動けない。創現の総意として見逃してほしい。お願いします」

「お父さん、考えるだけでもしてみて、あのね」

「唯は黙ってろ!」

「灯こそ黙ってて!」



噛みつくように言い返した私に、灯がぽかんとした。

そこに人差し指をつきつけて言ってやる。



「なんでもやるって決めたんじゃないの? なら使えるものは使いなさいよ! 父が私に甘いことくらい知ってるでしょ」



だったら私を使うのが、この場の最善なんじゃないの?

灯の目が大きく見開かれて、むっとした色が宿る。
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