クールな御曹司と愛され政略結婚
「なんでもやるっていうのは、俺の話だ」

「この世はね、灯のポリシーだか美学だかだけで成り立ってるわけじゃないの」

「それを捨てたら、成功したって意味がない」

「いつまでそうやっておキレイでいるつもりよ、お坊ちゃん!」

「なんだと!?」

「はいはい、ふたりとも、ケンカしない」



なだめる声に、はっとする。

私たちの肩をそっと叩いたのは、父のふっくらした大きな手だった。



「痛烈な意見、ありがとう、灯くん」



柔和な顔が、にこりと笑う。



「あの、すみません、ほんと失礼だし部外者だってこともわかってる、でも」

「いやいや、あのね、まさに僕も同じことを思って、彼らが仕事相手を選べる制度を整えていたところだったんだ」



「え」と私と灯の声が重なった。

父は座椅子に戻り、正面に座る灯のお父さんにお酌をして、うなずいた。



「柘植監督だね、名前は知ってる。彼が悪いことにならないよう、僕が必ず取り計らうよ、約束する。すぐに制度が追いつくと伝えてほしい」

「ありがとう…でも、なんで?」



正座したまま、きょとんとする灯に、父が微笑む。



「優秀なクリエイティブディレクターだったきみのお父さんが、大勢連れて出てっちゃってから、なんでだろうなあ、なんで一緒にずっとやれなかったのかなあって、残された僕たちも、さんざん考えたんだよ」



それまで黙って盃を傾けていた社長が、苦く微笑む。



「俺も若かった、出ていくにしてもほかにやり方があった」

「組織は大きくなるほど窮屈になるというジレンマを抱えてる。ねえ灯くん」

「はい」

「10年、15年後、きみが継ぐころには、ビーコンは必ず今より成長している。そこから窮屈な会社になるかどうかは、きみにかかってるんだよ」
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