クールな御曹司と愛され政略結婚
灯が、はっと姿勢を正した。



「はい」



少し緊張を感じる、その誠実な声に、私は結婚式で聞いた、灯の誓いの言葉を思い出していた。

社長がくいと杯を開けて、口の端を上げる。



「ま、継がせるとは限らんがな」

「ねえ、それよりさあ灯くん、その感じでちょっと『娘さんをください』って言ってみてくれないかなあ」

「えっ?」

「ちょっと、お父さん」



なにを言いだすのよ、と止めに入ろうとしたものの、まったく聞いてもらえない。



「働き盛りの若い男の子が、こんなふうに本気で頭下げるなんて、なんていい画だろう。ねえほら、ちょっとそこでやってみて」

「欲しいとも言われてないのに押しつけといて、今さらなに言ってるの!」

「義父の目の前で、怒鳴りつけてケンカだしなあ。不肖のポンコツ息子ですまんなあ、むっちゃん」

「引退間際の初老にポンコツ言われたくねえわ、クソ親父…」



離れの和室の中が不穏な空気に包まれはじめたところで、私はもう帰ろうと、灯をつついた。
< 146 / 191 >

この作品をシェア

pagetop