クールな御曹司と愛され政略結婚
「あの、泊まるってこと?」

「嫌ならお前だけ帰れ」

「そういう話じゃなくて」

「確かバルコニーにバスタブがあったはず」

「バルコニーにバスタブ!」



すてきすぎる!



「あ、ここの会計まだか」

「ううん、実はもうしてあるの、さっき灯が席外したとき」

「俺の嫁は男前だなあ」



感心するように眉を上げて、急展開に尻込みしている私に、右手を差し出した。



「行こうぜ」



その笑顔が優しくて、いたずらっぽくもあって、まるで小さいころ、親に禁止されていた遠くの公園に向けて出発するときみたいな、そんな具合で。

私は安心するのと同時に、わくわくもして。

灯の手に、左手を載せた。



「明日の服がないよ」

「そうだった。じゃあ先にショップに寄って買ってこう」

「全身?」

「もちろん」



昇りのエレベーターを呼ぼうとしていたところを、下りに替える。

ホテルの下はブティックになっていて、下着もコスメも洋服も、全部そろう。



「買ってくれるの?」

「いいよ」

「じゃあ灯の分、私が買ってあげる」

「そういや俺の誕生日だもんな」

「灯は全身ファストファッションでも決まるから、それでいいよね」

「ちょっと待て」
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