クールな御曹司と愛され政略結婚
灯は手ぶら、私はお出かけ用の小さなバッグひとつ。

手をつないで、ブティックフロアに着くやいなや、気になるお店を片っ端から見て回って、でも早く部屋に行きたいのもあるので、次々買って。

大小さまざまのショッパーをわんさか持って、あまりに短時間に散財をしたことにふたりで大笑いしながらスイートルームに飛び込んだ。

適当に荷物を放り出して、灯が私をソファに倒す。

襲いかかるような勢いでキスをされて、その間に私はパンプスを脱ぎ捨てた。



「先に風呂?」

「今はシャワーでいいかな」

「オッケー」



灯が身体を起こすと、上着を脱ぎ、ベストを脱ぎ、ネクタイを取り、ワイシャツ、Tシャツ、と脱ぎ捨ててためらいなく上半身を露出させていく。

再び覆いかぶさるようにして、背中のファスナーを一息に下げられたとき、私ははっと我に返って、灯の身体を押し戻した。



「あの、ちょっと待って」



ワンピースをはぎ取ろうとしていた手が、ぴくりと反応する。



「まさか、この流れからまたお預けくらわす気じゃないだろうな…」

「違う、違うけど、言っておきたいことが」



灯の顔が本気で不穏なので、ますます慌てる。

あっさり剥かれ、ロングキャミだけになった姿で、灯を見上げた。



「灯がどう思ってるか知らないんだけど、私、あの、灯以外と、経験なくて」



言っていて恥ずかしい。

灯がぽかんとしてしまったので、なおさら恥ずかしい。



「その、楽しむとか、そこまで行ってないから、期待には応えられないかも…」



真っ赤であろう顔を腕で隠して、灯の視線から逃げた。

ごめんね、28歳にもなって、こんなので。

これまでの灯の言動から察するに、私もそれなりの経験を積んできていると当然のように信じているふしがあったので、これはまずいと思っていたのだ。
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