クールな御曹司と愛され政略結婚
灯の戸惑った声がする。



「え、どういうこと、お前が高校のときの、あれきりってこと?」

「そう、あれが最初で最後」

「なんで…?」



なんでって言われても。



「好きな人以外とはするなって、灯が言ったんじゃない」



情けなさに泣きそうになりながら思い出させた。


──俺の次には絶対に、好きな奴を選ぶこと。


灯がそう約束させたんだよ。

私はそれを守ったの。


灯の声が、ますます戸惑った。



「え、好きな人ってなに? どういうこと?」



あれ?

これなんだかおかしいぞ、と思い、腕を外すと、灯はなにやら、見たこともないくらい動揺していた。

人をソファに押し倒しておきながら、目は平静さを失って、落ち着かなげにうろうろしている。

あれ?



「…私、灯のこと好きだって言ったよね?」

「聞いたけど、それがそんな、昔からの話だったなんて思わなくて」

「ずっと欲しかったって言ったの、聞いてたよね?」

「でも、10年も前からとか…」

「だったらなんなの?」



ぐずぐずとそこにこだわられるので、だんだんこっちがイライラしてきた。

人が恥を忍んで告白しているのに、受け止めないってなによ!

灯が急に、自分が裸であることが居心地悪くなったように、腕をこする。



「それでか、脱いで寝るなとか、うるさかったの…」

「そう、要するに慣れてないの」

「ごめん」



謝ってるよ。
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