クールな御曹司と愛され政略結婚
「ごめん…」



さっきまでの楽しげな勢いはどこへやら、灯はソファの端に座り、頭を抱えるようにしてうつむいてしまった。



「え…灯?」

「ごめん、ちょっと、想定外すぎて、気持ちの整理が」

「やっぱり重い?」



ソファの上を移動して、灯をのぞき込んだ。

灯が顔を上げて、でもこちらは見てくれず、前屈みのまま拝むように顔の前で手を合わせて、まだ動揺の抜けきらない目つきであらぬ方向を見ている。



「そういうんじゃない」

「じゃあなんなの」

「この申し訳なさと嬉しさは、たぶんお前にはわからない」



言っていて気持ちが高ぶったらしく、ふわっと耳を染めて、それが恥ずかしいのか、合わせた手に顔を埋めるようにして、またうつむいてしまった。

えっ、と思い、私はその身体にくっついて揺する。



「なんで申し訳ないの?」

「だって…俺平気で彼女とか作ってたし、お前にも話してたし、そういうの、けっこうきつかったってことだろ」

「言っとくけど、灯とする前に、好きな人いないって言ったのはほんとだよ。あの後で好きになっちゃったっていう順番ね」

「やる前からだったとしたら、罪悪感で死ねる…」

「嬉しいのはどうして?」

「そりゃ、嬉しいだろ」

「なにが?」

「…俺以外知らないとか、男としては、最高だろ」



そういうもの?



「独占欲みたいな感じ?」

「それともちょっと違う気がするな。もっと本能的な部分で、よっしゃーって思ってる感じ」



残念ながら私には、よくわからない。

私は別に、灯が私以外の人と経験豊富なのは、むしろ頼もしくて、嫌じゃない。

ただ、姉に対しては複雑な思いがあっただけで。
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