クールな御曹司と愛され政略結婚
雄の感覚なのかなあ、と首をひねっていると、灯が私の手を握った。

身を屈めて、腿に片肘をついて、探るようにこちらを見る。



「俺もずっと好きだったなんて調子のいいことは、言えないんだけど」

「いいよ、言ってくれなくて」

「唯は、俺にとって、すごく大事な妹で、やっちゃった後も、ますます大事だと思うようになって、後悔とは違うんだけど、あれで唯の人生がおかしな方向に行ったりしませんようにって、心の中でずっと祈ってた」



灯の握る力が強すぎて、実のところ、手が痛んでいたのだけれど、そんなのどうでもよかった。

突然しゃべりはじめた灯の声に、耳を澄ます。



「唯がビーコンに来て、俺の下についてからは、妹って感覚もかなり薄れて、代わりに相棒みたいな感じで、ほんと失いたくない、大事だって感じるようになって、そんなとき結婚の話が出て」



気づけば灯は、また床に向かって話しかけている。

照れることすら忘れるほど、想いを必死に言葉にしてくれているのがわかって、胸が熱くなった。



「また親父たちがバカ言ってるよって最初は笑ったんだけど、待てよ、と思って。ここで俺がしなかったら、いずれほかの男のものになるのか? それはなにか、おかしくないか? って」



当時の気持ちを思い出しているのか、ちょっと口を閉ざす。



「考えてみたら、唯の旦那になる男なんて、俺以外いないじゃないかと思って。そうじゃないんなら、誰に渡す気なんだよ、渡せる奴いねえじゃんって」

「すごい自信」

「でも、そう思ったんだよ…」



私をちらっと見て、急に恥ずかしそうに、声が小さくなった。

「手、熱いよ」と伝えると、力が入りすぎていたことに気づいたのか、一度ほどいて、優しく握り直してくれる。



「だから前にも言ったけど、俺、唯がどんな理由で結婚したんだとしても、別にいいんだ。ただずっと、俺の隣で笑っ…て、なくてもいいし、それこそ怒ってても泣いてても」

「泣いてても!」

「なんでもいいんだ。一生、俺の隣で、唯が好きなように生きてくれたら、それが一番嬉しい。唯にそうさせてやれるのは俺だけだって、たぶんどこかでずっと思ってた」
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