クールな御曹司と愛され政略結婚
幸せのかたち
「というわけで、お嬢さんをください」



固まってしまった父を、私はお茶を出すついでに、そっとつついた。



「これ、言われたかったんでしょ、よかったね」

「あのな、父さんにも時と相手を選ぶ権利がな…」

「ほら、返事待ってるよ」



ぽんと腕を叩いて励まして、客間を後にする。

父と対面するソファに座って、にこやかに微笑んでいるのは、一樹先輩。

その隣では、姉がにやにやしながらふんぞり返っていた。





「まあ、もうとっくに入籍してるんだけどねー」

「やっぱり、そろそろ親御さん公認で幸せになりたいしね」



あはは、と笑うふたりの前で、昼間の父と同じ状態になっているのは、灯だ。

以前来た、姉のお友達のバーで、早い時間に夕食がてらのフードを頼む。



「百歩譲って、お前たちが夫婦なのは理解した。で、要子は今なにをしてるって」

「ゼロのネットワークのプラットフォームを管理してる会社のCEOだよ。この機能があって初めて、ゼロが世界中のアマチュアを自在に活用できるわけさ」

「実は要子の、このプラットフォームのアイデアが先にあって、そこに俺が映像制作会社って業態を乗っけたんだよ。要子あってのゼロってわけ」

「黒幕かよ…」

「せめてラスボスと言ってくれよ、人聞きの悪い」



悠然とカウチ席でくつろぐ姉に、言うほど変わる? と口の中で突っ込みながら、私はカクテルをおかわりした。

ホテルでの一夜が明けた土曜、泡を食った母に実家に呼び戻されてみれば、この騒ぎだ。

姉は、突然『夫を連れてくよ』と連絡を入れて両親を仰天させ、一樹先輩を連れてきて私を仰天させた。


でもそういえば、コンペのチームの引き抜きが、一樹先輩のしたことじゃなかったのなら、どうしてあんないいタイミングで彼がそれを知ったんだろうと、少し気になっていたのだった。

あれは姉が伝えたのだ。
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