クールな御曹司と愛され政略結婚
カラカラとグラスを揺らしながら、灯がちょっと黙る。



「最終的には、唯が変な男に捕まるくらいなら、俺がもらっといたほうが安心、という結論に達した」

「すごい兄貴目線!」

「兄貴だよ」

「兄妹じゃ結婚できないんだよ」

「なら、結婚もできる兄妹なんだろ、俺らは」



灯が頬杖をついて、こちらを見た。

むくれたような表情に表れているのは、たぶん少しの照れ。

しばらく、プライベートではお兄ちゃんで、仕事ではボスだった灯の、こんな顔を見たのは久しぶりで、胸がどきんと鳴った。


「あとさあ」と灯が続けたとき、さらに鳴った。

なんの話が来るか、わかったからだ。



「この話が出たとき、最初、俺らのこと知られてんのかと思ったよ」



気まずそうに、恥ずかしそうに、前髪に指を入れて顔をしかめる。

私たちの間で、"そのこと"が話題に出たのはこれが初めてで、私は平静を装いながらも、今にも飛び出してきそうな心臓と戦っていた。



「それは…ないと思うよ」

「お前も思わなかった?」

「ちょっと思った」



正直に打ち明ける。

灯は困ったように笑い、またウイスキーを飲んだ。



「結局、責任取る形になったな」



そうだね、って一緒に笑ったつもりなのだけれど、できていたかどうか。



──10年前の話をしよう。


私は高校3年生、灯は大学2年生。

高校卒業と同時に灯は実家を出て、大学の近くで一人暮らしを始めた。

それまで同じ高校に通っていたのだから、当然私はさみしくて、それを知っていた灯は、ちょくちょく帰ってきては父の目を盗み、うちに顔を出してくれていた。
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