クールな御曹司と愛され政略結婚
「あんまりからかうな。要子が突然戻ってきたのは、もしかしてそれでか?」

「ううん、私は灯からビーコンの情報を盗もうと思ったんだ、ゼロの事業拡大のためにね。でもふたりをかき回すほうが面白くなって、やめちゃった」



アハッと姉は笑い飛ばしているけれど、要するに灯はスパイのカモにされかかっていたわけで、ははは、と乾いた笑顔を浮かべている。

姉がグラスを舐めながら、にやりとした。



「いまいち夫婦になりきれてないのもすぐにわかったし、しかもその原因に、どうやら私が絡んでいるようだとなってはね」

「それは実際、要子も責任あるよな。もとはといえばあれだろ? まだピュアだった野々原を強制的に筆おろ…」

「黙れ!」



いきなり灯が大声で遮ったので、私はびっくりした。

バーでそんな声出さないでよ、とシャツを引っ張ると、はっと気づいたようで、気まずそうな視線を揺らす。

まあ、早い時間なので店内は私たちしかいないんだけれど。

一方、正面のふたりはそんな灯を指さして笑い転げている。



「筆ってなんのこと?」

「知らなくていい」

「後で教えてあげるね」

「教えなくていい!」



さっぱりわけがわからない私をよそに、灯は真っ赤になり、姉と一樹先輩はおなかを抱えて「腹痛い」と涙すら流しそうな様子だ。



「なんなの?」

「まあ要するに、経験のなかった灯相手に、私が遊びすぎたってことだ」

「強烈だったろうなー、なにも知らないところに、要子じゃなあ」

「そのころの写真をネタに、ずいぶんいじめたよね。実はまだ取ってあるんだ。かわいいんだよー、もう半泣きになっててさ」

「消せよ、頼むから…!」



現在の灯も半泣きだ。

にやにやしながらデータを探す姉の手から携帯を奪い取り、画面を見て絶望の表情でうなだれる。

一樹先輩がのぞこうとするも、そこはがっちりガードして見せなかった。
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