クールな御曹司と愛され政略結婚
「こういうのもリベンジなんとかに入るのかな?」

「言うな!」



「情けなさで消えたくなる…」という悲痛な声は、顔を覆う腕に阻まれてくぐもっている。

私はぴんと来ないながらも、かつて大人の秘密をふたりで隠し持っているように見えていた姉と灯の関係の実態が、ようやくなんとなく掴めた気がした。

ごめんね、容赦ない姉で…と頭をなでてあげたいけれど、今の灯にはよけいプライドを傷つけるだけだろうと思い、やめておく。



「この写真、消すぞ」

「どうぞ、バックアップは済んでる」



余裕の姉に、灯は唇を噛みながらも、一応データを消して、携帯を返した。

見ていて気の毒なほどのダメージを受けているので、私も写真を見たかったなんてとても言えない。

一樹先輩が目元を指で拭いながら、私に向かって手を広げてみせる。



「わかったろ。野々原は、要子も唯子ちゃんも大事にしてたけど、それは全然種類の違うものだったんだよ」

「でも私は、妹でいるより、お姉ちゃんみたいに対等になりたかったの」

「本物の妹のいる俺に言わせれば、野々原と唯子ちゃんの仲のよさは、そもそも兄妹なんかじゃなかったよ。野々原がその言葉を使ったのが間違い。それで唯子ちゃんを縛っちゃったんだから、野々原はもっと責任を感じるべきだね」

「いいこと言うねえ、…あれ?」



携帯を眺めていた姉が、カウンターにいるマスターを振り返った。



「ごめん、ちょっとここで電話出ていい?」



快い承諾をもらってから、「はいはーい」と携帯を耳に当てる。



「うん、いるよ。え、今から?」



一樹先輩と目を合わせて、少しのやりとりの後、通話を終えため息をついた。



「父さんが、一樹と飲みたいと言ってるんだってさ」

「え、俺と? サシで?」

「そう。さっきあーうーしか言えなかったから、名誉挽回したいんだろ」

「わかった、相手させてもらうよ」

「そして母さんは私に話があるらしい。というわけで私も帰るよ」
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