クールな御曹司と愛され政略結婚
それ、うちの父の立場をかなり危うくするんじゃないの。

マルミににらまれたら、テレビ局だって生きていけないと言われているのに。



「逆だろ、海堂が、創現の専務の娘をいきなり連れてったって見方もできる」

「たぶんそっちだよ、姉貴の結婚のおかげで、俺は長男とはいえ、後継ぎって意味では今のところ、そう重要視もされてないから」

「それでか、お前がゼロで名前を出さなかったの」

「そう、雲隠れ中だったし、立場がばれると動きづらいし」



いきなり飛び出した、とんでもない事実に、灯は呆然としている。

姉は完全に他人事の態度で、はははと笑った。



「まあ、父さんのことだ、このネタを使って、けっこうおいしく立ち回るんじゃないかと思っているよ、私は」

「ショックで寝込んじゃわないかなあ…」

「見くびっちゃいかんよ唯子。あの人も、創現という大会社で、なんのコネもなく、自力で今の立場までのし上がった男なんだぜ。太っちゃいるがね」



そうか…。

言われてみればその通りだと納得すると同時に、姉の目には、父がいつもそう見えていたのだと知って、新鮮さを覚えた。

親をどう見ているかなんて、そういえば話したこともなかった。



「さて行くか、私は母さんが許してくれたら、今日は実家に泊まるつもりだよ。後で会おうね、唯子」

「俺もいるかもねー」



バイバイ、と気負いなく手を振って、ふたりは去っていった。

残された私と灯は、しばらく飲み食いもせず、ぼんやりしていた。



「一樹先輩が、本物のお兄ちゃんになっちゃった」

「ああいうの、似たもの夫婦って言うんだろうな…」



いろいろと呆然だ。

腿に頬杖をついて、どこを見るでもなく物思いにふけっている灯に、私は「ねえ、それだよ」と指摘した。



「え」

「今、なに考えてた?」

「なにって」

「灯って、お姉ちゃんとなにかあった後、必ずそういう顔するの。魂持っていかれちゃったような」
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