クールな御曹司と愛され政略結婚
だから私が誤解したのだ。

灯も自覚があったらしく、はっと気恥ずかしそうな顔をして「要子のこと考えてた」と正直に白状する。



「ほらね」

「お前が想像してるようなことじゃない。ただ、鮮やかだなあと思って」

「やり手ってこと?」

「いや、ビビッドって意味。存在がいつも、そんな感じだろ。どこにいても埋もれなくて、久しぶりに会ってもすぐ要子ってわかる」

「そうだね」

「なんかこう、目がくらむ感覚がある、昔から」

「…やっぱり、完全に私の勘違いってわけじゃないと思うんだけど」

「冗談やめろ」



灯がぎょっとした。



「俺は、二度と要子とどうにかなりたいなんて思わないぞ」

「でも、たとえばさ、お姉ちゃんの性癖がすごく普通だったとしたらどう」

「…そんな仮定、意味ないだろ」



あれ、揺れた。

ちょっと焦り、そんな自分に動揺している様子の灯に、さらに絡んでみる。



「なんだかんだ、一樹先輩に悔しい思いが、ほんのちょっとあったり?」

「ない。むしろ尊敬しかない」

「ほんとかなあ」

「なんなんだお前、あるって言えば満足なのか」



本気で怒りだしたので、笑ってしまった。

幼い恋心を抱いた相手から、さんざんな目にあわされたかわいそうな灯は、それでも姉を切り捨てずに、幼なじみとして私と同様、大事にしてくれた。

灯のそんなおおらかさと、少し傷ついた男心を、私は誤解したのだ。



「灯も、お姉ちゃんには勝てないんだね」
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