クールな御曹司と愛され政略結婚
まったく、姉は無敵だ。

いっそ清々しいような気分でそう言うと、灯は恥ずかしそうに顔をしかめて。



「俺なんか、どうせお前にも勝てない」



苦々しく、そう吐き捨てた。





「私の部屋、きれいだったよ」



姉が煙草をくゆらせながら、夜のベランダを歩いてきた。

隣り合った私と姉の部屋は、ベランダでつながっているのだ。

手すりに背中を預け、ふうと夜空に煙を吐く。



「埃ひとつなかった。参っちゃうよな、母親の愛には」

「お姉ちゃんは昔から、大事にされてたもん」



庭から、リーリーと虫の声がする。



「そんなことないよ」

「私なんて、テストの点数も気にされたことないよ?」

「それは、たとえ0点でも、唯子のかわいさに変わりはないからだ」



私の部屋の明かりが、カーテン越しにうっすら姉を照らす。

いつ見ても、目をそらすのが難しいくらい美しい。



「私は常に100点であることを期待されてた。それを利用することもあったけれど、ほんとは唯子みたいに、無条件で愛されてみたかったよ」



にこりと姉が笑む。

いつも感情を読ませない瞳には、ごくかすかに、切ないような、痛みのようなものが浮かんでいて、私は驚いた。



「…一樹先輩、まだお父さんと飲んでるの?」

「盛り上がってるみたいだな、よかったよかった」

「いつ出版社を辞めたの、お姉ちゃん」

「連絡を取らなくなってすぐだ」
< 177 / 191 >

この作品をシェア

pagetop