クールな御曹司と愛され政略結婚
灯は運動神経もよければ勉強もできるという万能な男で、私が同じ高校に入学したときには、すでに学校内では知られた存在だった。

"男子バレー部の野々原"といえば、男子からしたら「比べられても困る」、女子からしたら「どうにかして同じ空気吸いたい」という相手だったのだ。


賢い灯は、無用な闘争を避けるため、彼女には他校の子を選んでいた。

なのでいまいち相手の切り替わる時期をつかめなかったものの、少なくとも私が入学した時点と、灯が卒業した時点とでは、別の子になっていた気がする。

さてそんな灯は、私が3年になると、実家に帰ってきたついでに受験勉強を見てくれるようになった。



『ひどいな』

『そこまででもないでしょ、大げさに言わないでよ』

『俺の大学に来る気かと思ってたのに』

『入れるわけないってば!』



トップクラスの国立大に難なく受かってみせた兄貴分に腹を立てると、なんだかもう、すっかり先に大人になってしまった顔が笑う。

なんだろう、やっぱり家を出て自活すると、変わるものなんだろうか。

私の知らないあれこれを、全部知っているに違いないと思わせるような、余裕のある微笑みとかからかいとか。

学生といえど、私から見たらその頃の灯は、完全にひとりの大人だった。


あるとき私は、学校で実に思春期らしいショックを受け、家に帰るとすぐに、ちょうど帰省していた灯の部屋を訪れた。



『灯ってさあ』

『うん?』



ベッドに寝転がって映画雑誌を読んでいた灯が生返事をする。



『高校のときの彼女と、してた?』



たっぷり5秒はたってから、ようやく灯は雑誌から目を離し、私を見た。

そこにあったのが予想外に真剣な顔だったから戸惑ったんだろう、開けた口を一度閉じて、動揺を逃がすように軽く咳ばらいをした。



『教えない』

『どうして!』

『なんでお前にそんな話しなきゃならないんだよ!』

『標準を知りたいの、標準を。平均値を』

『やけに必死だな』
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