クールな御曹司と愛され政略結婚
怪訝そうに眉をひそめる灯に、『そうなの、必死なの!』とベッドサイドにひざまずく勢いで食いついた。



『友達がね』

『あ、わかった、もうその先いい』

『ちょっと!』

『彼氏とやっちゃったって言うんだろ。その子はその子、唯は唯。はい終わり』

『続きがあるんです』

『お兄ちゃん聞きたくないなー』

『うまくできなかったんだって』



灯が雑誌を三角屋根みたいに顔にかぶせて、黙ってしまう。

ねえ、と身体を揺すると、『俺になにを言えと』と力ない声がした。



『どう思う?』

『どう思うって。どっちも初めてなら、そういうこともあるよ』

『すごく気まずくなっちゃったらしくて、友達、傷ついてるんだよ』

『傷つく必要なんかない。ふたりでまたがんばればいい話』

『それ、灯の体験談?』



雑誌で頭を叩かれた。

覆いの取れた灯の顔は、うっすら赤みが差していて、私はびっくりした。



『灯でもこういう話、恥ずかしいの?』

『こういう話をお前としてることが恥ずかしいの。ていうかいたたまれないの』



そうなんだ。

私は当時、灯が上で自分が下、という立場を完全に受け入れていたので、どんな話題であれ、灯ならつきあってくれるはずという謎の確信を持っていた。

それがどうやら違ったらしいとわかり、続く相談をためらう。



『これ言っていいのかな…』

『まだあるのかよ…』

『私、灯に処女をもらってもらおうと思ったんだけど』



ああ私、今、宇宙人かなにかだと思われているな、と向こうの顔を見て感じた。

灯の脳、完全に停止している、たぶん。
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