クールな御曹司と愛され政略結婚
「すみません、電話一本だけ、いいですか」

「もちろんです。ご一緒のお仕事をされているんですね」

「はい」

「あの、興味本位で失礼なのですが、おふたりの出会いは、ご実家が近いというお話ではありませんでした?」



私たちが最初に書いたプロフィールシートが挟まっているんだろう、プランナーさんが手元のバインダーをのぞいて、首をひねる。

携帯でコーディネーターの番号を検索しながらうなずいた。



「それも本当です」

「よほど強いご縁なんですね、あんなすてきな方と、うらやましいです」



白と淡いピンクで統一された、幸せな人以外お断り、と書いてあるような空間で、彼女が嬉しそうに笑った。

私はあいまいに笑んで返し、電話に集中した。


強いご縁だとも。

風のように飛び出していったさっきの男、野々原灯(ののはらともる)は、現在私のボスであり、小・中・高と同じ学校に通ったふたつ上の先輩であり、実家が徒歩10秒くらいの距離にある幼なじみであり、話すと長くなるけれど、父親同士も深い因縁があり。

そんな"全部入り"の関係の仕上げをするように、来月私と結婚する。

狙ったわけではないけれど、6月に。


けれど考えてしまう。

はたして私はこのハッピーオーラに満ちた場に、いる権利があるのだろうか?


 * * *


「ごめん、遅くなりました」

「お疲れ。こっちもようやく確認とれた。向こうの社内でのすり合わせミスだ」

「全日程を、丸一日後ろに倒してくれ、だそうですよ」



かろうじて都内、と言える場所にあるスタジオ内のテーブルで、灯と撮影香盤のチェックをしていたらしい菅原くんが、もはやあきらめたのか、腹を立てた様子もなく苦笑した。

まだ26歳の、新進気鋭の映像監督だ。



「ここのスタジオは、延長できないんですよね、佐鳥(さとり)さん?」

「念のため確認したんだけど、やっぱりダメだった」
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