クールな御曹司と愛され政略結婚
『灯ってエッチの後、煙草吸うんだ』

『うるせーよ』



私が茶化すと、やけにきまり悪がった。

夕食をごちそうしてくれて、夜には家まで送り届けてくれた。



『ありがと』

『約束守れよ』

『守るけど、最後にひとつだけ不満言っていい?』



バイクにまたがったままの灯の、フルフェイスのヘルメットから見える目が、警戒の色を帯びた。

むき出しのエンジンから放射される熱が、私の脚を温める。



『なんでキスしてくれなかったの?』

『…だってお前、それも経験ないんだろ?』

『だからセットでしてほしかったのに』

『そのくらいとっとけよ、別になんの障害にもならないだろ…』

『処女じゃないのにキスしたことないってほうが、変に思われるよ』



どれだけ愛のない奴とやったんだよ、と普通なら思う。

私の言い分にも一理あると思ったのか、灯が長々とため息をついて、ヘルメットを取った。


頭を一度振ると、清潔な感じの髪がぱらっとほぐれる。

赤と黒のグローブが頬をなでた。


軽く私の顔を上向けるようにして、灯が首を伸ばし、唇を重ねてきた。

ためらっていたらきりがない、みたいな、妙に思いきりのいいキスだった。

しばらく行儀よく押しつけてから、私がまったく満足していないのを感じ取ったんだろう、灯の手が肩に回り、ぐいと私を抱き寄せた。


深く唇が噛み合って、温かい舌が滑り込んできた。

どうしたらいいのかわからず佇んでいた私の舌を、こうするんだよ、と教えるみたいに舌先でつついて噛んで、それから歯を舐める。

ひざから力が抜けそうになって、灯の服を掴んだ。


濡れた唇を、何度か軽く、柔らかく吸って、灯はキスを終わりにした。

言葉もなく見上げる私を、じろっと見下ろす。
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