クールな御曹司と愛され政略結婚
今、朝の5時前だ。

海外絡みの連絡か、と気づき、私も頭が切り替わってきた。

灯の横顔も、仕事用の目つきになってきている。



「ちょっと唯に替わる、そこ話し合っといてくれ」



携帯を放るようにこちらに渡し、「PC取ってくる」と言って足早に出ていった。

画面を確認すると、阿部(あべ)くんという若い監督だ。



『でですね、向こうは今日にでも再オーディションしたいと言ってまして、でも現地に誰もいないんで! どうしましょう、つなぎます? でも灯さん』

「阿部くん、私、佐鳥です、なにがあったのか教えてくれる」

『あっ、え、佐鳥さん? あ、ご結婚おめでとうございます!』

「ありがとう、それはいいとして、どうしたの?」

『聞いてくださいよー!』



聞いた。

今制作している、ある企業のブランドCMで、出演が決まっていた役者の一人が骨折し、出られなくなったという話だった。

実は今週末にはその撮影のため、灯はロサンゼルスに飛ぶ。



『第二候補いたじゃないですか、その人も身内に不幸があったとかで、辞退してきてるんです。現地のキャスティング会社から、佐鳥さんたちにもメール行ってるんで、詳細はそっちで』

「わかった。今日の再オーディションていうのは、現地時刻だよね。それがやっつけでなくちゃんと準備できてるなら、やっちゃいましょう」



言っている間に灯が戻ってきて、机にPCを置くと私を手招きした。

引いてくれた椅子に座り、開かれていたメールに目を通す。

今回作る映像は、30秒という短い尺だけに、役者の演技力が求められる内容で、出演者のオーディションのために灯も私も現地に行き、かなりの厳選の末、やっとこれならという役者を見つけたのだった。


第二候補もダメだとなると、もう一度一から探し直しだ。

でももう撮影も迫っている中で、同じ規模のオーディションをする時間はない。

携帯をスピーカーにして、横に立っている灯にも聞こえるようにした。
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