クールな御曹司と愛され政略結婚
灯は時刻に関係なく、24時間好きに連絡してくるので、それを受けるために携帯は必ず防水のものを選び、バスルームに持ち込んでいたりする。

でも別に、わざわざ「今お風呂で」なんて告げたことはなかったのに。



「わかるに決まってるだろ、声の響き具合とか」

「えー!」



それ、けっこう恥ずかしい。

デスクに向かっている体で受け答えしていたりもしていたから、なおさら。



「うち、お袋も長風呂なんだよな。あれ、いったい中でなにやってんの? どうやったらあんな長い時間、液体に浸かって過ごせるんだ?」

「考え事したりとか、本読んだりとか、マッサージしたりとか…」

「ふやけないか?」

「たくさん汗が出て、つるつるになるの、気持ちいいよ」



とうてい理解できないという目つきでこちらを見る。

いいよ別に、これはもう、女にしかわからない楽しみだと思っているから。

うちだって父親はカラスの行水だ。



「今日は入らなかったのか」

「仕事あったし…まだそういうの、勝手かなと思って」



バスルームを占拠してしまうことになるので、その間、灯はシャワーも浴びられない。

入りたい気持ちはあったし、実はすでに入浴剤も多種多様そろえて、新品のバスタオルもふかふかに水通しして、準備万端なんだけれど。

椅子の上の私をじっと見下ろしていたかと思うと、灯はふっと微笑んでこちらに手を伸ばし、私の頭をくしゃくしゃとなでた。



「遠慮してないで、好きなことしろよ。お前の家なんだぜ」



仕上げみたいに、最後にぽんぽんと叩く、昔からの灯のやり方。

こういう、たまにいきなり、普通に優しいの、ずるいと思う。

部屋を出ていく広い背中を見ながら、心の中で毒づいた。



10分もしないうちに灯がシャワーから上がる気配がした。

音をたどってリビングのほうへ行くと、キッチンで冷蔵庫を開けている。


また上は裸、下はスエット、首にはタオル。

どうやらお風呂上がりは、なるべく服を着たくないらしい。
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