クールな御曹司と愛され政略結婚
「私たちの案件も、『ゼロ』だったよ」



炭酸水のペットボトルを取り出した灯が振り返った。

こちらを見たままフタを開け、ひと口あおってから口を開く。



「確かか」

「別件で代理店さんと話す機会があって、カマかけたら掛かった」



灯の頭の中からアルコールが急速に追い出され、思考の回転が上がってきているのが見ていてわかる。



「この動きは予想外だったな」

「どこかに影響は出ると思ってたけど」

「この分だと、中堅以下の代理店は、こぞって同じことをしはじめるだろう。代理店を挟まず直取引してるクライアントも、言いだしづらいだけで考えは同じ可能性もある」

「でも、私たちがそこまで極端な手のひら返し、するわけないじゃない」



大なり小なり、大型案件や太い顧客のほうが大事にされがちなのなんて、どの世界だろうが一緒だ。

けれど少なくとも私たちは、そんな基準で制作に手を抜いたりしたことはない。

百万円強レベルのものから億を超えるものまで、すべて全力だ。



「しそう、と思えれば十分なんだろ」



灯の言葉に、若干の含みを感じる。

私は思わずカウンターに身を乗り出した。



「そう思われるようゼロが仕向けた?」

「その可能性もあるってだけの話だ」



なにか考え込んでいるんだろう、心ここにあらずといった様子で灯がペットボトルに口をつけている。



「唯、ゼロのリール持ってたろ、ここにあるか」

「ある」

「貸してくれ。あと今日は先に寝てろ」



完全にボスの声だ。



「はい」
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