クールな御曹司と愛され政略結婚
リールというのは、会社やディレクターが営業や自己紹介のために用意している自身の作品集のことだ。

書斎の収納に入れたはずだと記憶を探りながら、キッチンを後にする。

背後で灯がつぶやいた。



「ビーコンは、大きくなりすぎたのかもな」



そうかもしれない。


 * * *


翌日、灯は私が出るときも寝ていて、11時前ごろ、ゆっくり出社してきた。

遅刻という概念のない勤務体系なので、それで仕事が回るのなら、たまにこうして遅れるのは特に問題視もされない。

周囲はみんな社外に出ていて、デスクにいるのは私だけだ。



「美術部との最終打ち合わせ、14時に変更してほしいって。平気?」

「うん」



難しい顔で、まだなにか考えている。

隣に座る灯の腕に、そっと手を置いた。

彼がびくっと反応して、こちらを見る。

それからピリピリしていた自分を恥じるように、照れくさそうに笑った。



「悪い」

「ゼロのリール、どうだった?」

「いろんな情報と照らし合わせて、じっくり見てみたんだが」



メールを確認しながら、灯が慎重に言う。



「まず幅が広い。考えられないくらいチープな作品もあれば、湯水のように金をかけているのもある。でもどれも、とにかくセンスがいい」

「スタイリッシュなのがゼロの売りだものね」

「ディレクターを選びに選んでるんだと思う。その代わりクライアントは選んでない。金のない案件は金を使わずに済ませてる。ひとことで言えば器用だ」



灯の嘆息の理由はわかる。

会社が大きくなってくるとどうしても、扱う額も大きくなる。

そうすると関係者がお金を使うことに慣れ、また本当にいいものはある程度お金をかけないと作れないこともわかってくる。
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