クールな御曹司と愛され政略結婚
「うちの場合、『わかりました、じゃあこれだけかかります。そんなに出せませんか? いいもの作る気がないんですね』って論理がまかり通るだろ、相手も大手なことが多いから」

「"いいもの"イコール"求められているもの"ではない」

「そう。ゼロはそのあたり割り切りがいい。変なクリエイター根性がない。商売人ぽいって言うのかな。クライアントとの取引あってのクリエイティブってことを、わかってる」



今のビーコンにとって、一番厄介な相手ともいえるだろう。

小回りの利く制作力を武器に、中小手のクライアントを軒並みさらっていくつもりだ。



「うちを狙ってると思う?」

「どうかな、ほかの制作会社に聞かないとわからないけど。でもうちと創現との取引解禁を待っていたのは確かだ。自然発生じゃ、ここまで重ならない」



不気味、と昨日誰かが言っていた。

その表現が、ゼロとこの状況を、とてもよく表している気がする。

ひとりのプロデューサーとしてか、社長の息子としてか、灯はその日、ずっと言葉少なに黙り込み、事態を案じていた。



 * * * 



「まただよ、ゼロ!」



週の後半に入っても、そんな声が途切れなかった。

思わず隣の灯を見る。

灯は無言でPCのキーを叩いていた。

髭を生やした元創現の神(じん)さんが、腕組みをしてうなる。



「小口顧客の心理をうまく突いてるよね。大手で軽んじられるより、うちで大事にされてみませんかって」

「実際かなり割安らしいですよ、ゼロの制作」

「なんでそんなことができるんだ?」



みんなが首をひねっている中、固定電話が鳴った。

内線だ。



「はい、制作部です」

『受付です、野々原さんにお客様がいらしております。お約束はないとのことなのですが、いかがなさいますか』

「どなたでしょう?」

『株式会社ゼロさまです、ご挨拶をとのことで』

「ゼロ!」
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