クールな御曹司と愛され政略結婚
思わず大きな声を出してしまい、デスクにいた全員の注目を浴びた。

灯も何事かという顔をしている。



「どうした」

「受付から。ゼロが、灯に会いたいって来てるんだって」

「俺に?」



みんなとすばやく顔を見交わし、灯が自席の受話器を取る。



「野々原です、すぐ行くと伝えて。あと応接室をよろしく。こっちは…え?」



疑問の声をあげて、私のほうを見た。

え、なに?



「わかった。じゃあ佐鳥も連れて、2名で行くね」

「えっ、私?」

「お前のこともご指名だと」



受話器を置いた灯が、ジャケットを羽織って机の上の名刺入れを取り上げる。

戸惑いつつ、私もほぼ同じことをした。


ゼロが灯に会いにくる理由もわからないのに、そのうえ私?

みんなに見送られてフロアを出ながら、灯がにやりと笑う。



「ようやくお出ましか」



受付の女性に案内された応接室には、ひとりのスーツ姿の男性が座っていた。

私たちが入っていくと、さっと立ち上がり、にこりと微笑む。

灯が急に立ち止まったので、彼を先に通してソファにかけようと思っていた私は、灯の足につまずいた。


なによ、と見上げると、灯は呆然と、来客の顔を見つめていた。

その目は驚愕に見開かれている。

スーツの男性がこちらにやってきて、片手で親しげに名刺を差し出した。



「ゼロの海堂(かいどう)です、よろしく」



灯はぼんやりしたままそれを受け取り、海堂氏の顔と名刺を、何度か見比べた。
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