クールな御曹司と愛され政略結婚
消せない影
週末は、すでに本格的な夏を感じさせる陽気だった。
こまごました日用品を買いに出ていた私は、名前を呼ばれた気がして、広い歩道の上で足を止め、きょろきょろする。
すぐ目の前に、真っ赤なドイツのカブリオレが停まっているのが目に留まり、ひゃー派手、なんて思っていたら、乗っていた人が私に向けて手を振っていた。
「唯子ちゃん、こっち」
一樹先輩だった。
「気持ちいい!」
「コンバーチブル乗ったことない人は、人生損してるよね」
買い物そっちのけで、気持ちよく走れるベイエリアを目指し、車は疾走中。
風が髪をなぶり、日差しが直接肌に降りかかる。
サングラスを持っていてよかった。
「私まだ二度目。ちゃんと座って乗ったのは初めて」
「一度目はトランクにでも入ってたの?」
「それに近い」
後部座席の床に丸くなっていたのだ。
車の撮影で、どうしても同乗する必要があったものの、映り込むわけにはいかなくて、そんな事態になった。
説明すると一樹先輩は、非の打ちどころのないきれいな顔を、無造作にくしゃっとしかめて大笑いした。
「あるある」
「それもオールドカーだったから、こんな最新の初めて。これいくらするの?」
「ストレートだなー。後で自分で調べなよ」
「先輩、なんであんな登場の仕方したの、灯、落ち込んで大変だったんだよ」
「あれ、怒ったんじゃなくて?」
「灯の性格、知ってるでしょ」
彼は答えず、サングラスからのぞく口元を微笑ませた。
海堂一樹。
灯の高校の同級生だ。
こまごました日用品を買いに出ていた私は、名前を呼ばれた気がして、広い歩道の上で足を止め、きょろきょろする。
すぐ目の前に、真っ赤なドイツのカブリオレが停まっているのが目に留まり、ひゃー派手、なんて思っていたら、乗っていた人が私に向けて手を振っていた。
「唯子ちゃん、こっち」
一樹先輩だった。
「気持ちいい!」
「コンバーチブル乗ったことない人は、人生損してるよね」
買い物そっちのけで、気持ちよく走れるベイエリアを目指し、車は疾走中。
風が髪をなぶり、日差しが直接肌に降りかかる。
サングラスを持っていてよかった。
「私まだ二度目。ちゃんと座って乗ったのは初めて」
「一度目はトランクにでも入ってたの?」
「それに近い」
後部座席の床に丸くなっていたのだ。
車の撮影で、どうしても同乗する必要があったものの、映り込むわけにはいかなくて、そんな事態になった。
説明すると一樹先輩は、非の打ちどころのないきれいな顔を、無造作にくしゃっとしかめて大笑いした。
「あるある」
「それもオールドカーだったから、こんな最新の初めて。これいくらするの?」
「ストレートだなー。後で自分で調べなよ」
「先輩、なんであんな登場の仕方したの、灯、落ち込んで大変だったんだよ」
「あれ、怒ったんじゃなくて?」
「灯の性格、知ってるでしょ」
彼は答えず、サングラスからのぞく口元を微笑ませた。
海堂一樹。
灯の高校の同級生だ。