クールな御曹司と愛され政略結婚
「…ぼちぼち」

「照れてないでラブラブって言いなよ」

「結婚自体に事情ありなの、先輩だって聞いてるでしょ」

「赤の他人てわけでもあるまいし。野々原が唯子ちゃん以上に大事にしてた女の子なんて、知らないけどね」

「ゼロのwebサイト見たんだけど、先輩の名前、載ってなかった」



あからさまに話題を変えた私を、先輩は左側の運転席からちらっと見ただけで、追い詰めはしまいと決めたようだった。



「うち、社長が二人いるの。顔出ししてるのは相方のほうだけ」

「どっちも代表取締役なの? そんなことってできるの?」

「できるよ、代表の人数は、実は会社法では決まりがないからね」



灯がゼロについて調べながらも、先輩の存在に気づかなかったのはそのせいだ。

webサイトに記載されていた代表取締役は、別の人だった。



「どうしてゼロを起ち上げたの?」

「探ってこいって野々原に命令でもされた?」



おかしそうに笑われ、私は目をそらした。

命令されてはいないけれど、情報を持って帰ったら灯が喜ぶかなと思ったのは確かだからだ。

私には、お兄ちゃんに褒めてほしい妹根性が染みついているのだ、もう。

晴れた昼間のレインボーブリッジは、もう気持ちいいなんてもんじゃない。

青い空に光る白い橋を見上げていると、絵画的魅力がないと言われる日本の建造物だって、悪くないじゃない、と思える。



「砂浜歩こうよ」

「ダーメ、俺はこれから仕事だって言ったでしょ」

「ちょっとだけでも?」

「野々原に甘えさせてもらってないの?」



ダメだ、鋭すぎるな、この人。

一樹先輩は、灯の友達の中では一番私と仲よくしてくれていた人で、今でもこうしていると、第二のお兄ちゃん的な感覚がある。

灯が彼女とばっかり遊んでいたりして、私がふてくされていると、すぐに気づいてかまってくれたのは必ず一樹先輩だった。
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