クールな御曹司と愛され政略結婚
「灯は今でも、姉を忘れてないと思わない?」



なにも言わない先輩を見て、自分が否定してほしがっていたことを知った。

ちっとも成長していない私。

甘ったれで欲しがりの、他力本願。



「そうだとしても驚かないね」



一樹先輩は、相変わらず率直だ。

残酷なくらい。



私を拾ったあたりで、先輩は車を停めてくれた。



「ありがとう」

「唯子ちゃん」



シートベルトを外そうと顔を伏せたとき、伸びてきた指に喉のあたりをくすぐられて、はっとした。

顎をつまむように持ち上げられ、整った顔を間近に見る。

乱暴ではないけれど、有無を言わせない力。

先輩が、気取りのない仕草でサングラスを取った。



「野々原のそばにいるのが、正直きついのなら、うちにおいで」



灯と違って、明るくしている髪が風に揺れている。

きれいな顔立ちの中でも、ひときわ目を引く楽しげな瞳が、私を映してにこりと笑んだ。



「優秀なプロデューサーを探してるんだ」

「私はその肩書としては未熟だよ」

「野々原と三年やってきたんだろ? 十分すぎるよ」



すぐに拒絶できなかったのは、どうしてなんだろう。

私の揺らぎを、先輩が見逃すはずもなかった。



「言いづらいなら、俺が野々原と交渉するよ」

「…私はビーコンで、まだやることがあると思ってる」

「やることならうちにもいっぱいあるよ。唯子ちゃんみたいな優秀で俺好みの子が入ってくれたら、病んじゃうくらいのタスク積んであげる」



この人ドSだ。

顔をそむけて車を降りた。
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