クールな御曹司と愛され政略結婚
言葉が続かなくなった私に、灯が腹立たしげに言った。



『海堂には不用意に近づくな』

「そんなこと言ったって」

『お前は昔っから、あいつにかわいがられると喉鳴らして喜ぶんだ』

「はあっ!?」



とんでもない言いがかりだ!

確かに第二のお兄ちゃんと思ってはいるが、あくまで第二だ。

私にとっての一番は、いつだって灯だったのに!



『いいから近づくな。特に俺のいない間は』

「私だって灯がいてくれるんなら、わざわざ先輩に遊んでもらわないよ」

『好きでお前を放っといてるわけじゃない』

「へえ、放っといてるって自覚はあったんだ」



かちんときて、思わずかわいげのない物言いになる。

灯も頭に来たらしく、すぐに言い返してきた。



『お前、自分だってさんざん家に仕事持ち帰っておいて、なんだ』

「お互いさまなら自分の分の罪が軽くなると思わないでね、そこは別問題」

『土曜、絶対迎えに来いよ、話すことがたくさんありそうだ』

「旦那さまのご命令ですか。聞いてあげるけどね、だったら少しは妻帯者の自覚持ちなさいって言いたいよ、こっちは」

『そっくりお前に返すぜ』

「資料送ったから、チェックよろしくね!」



PCのエンターキーを力任せに叩き、テーブルに置いていた携帯も切った。

なんだあれ!

頭に血を上らせたままフロアに戻り、自席で作業の続きを始めたところに、後ろのデスクから声がかかった。



「佐鳥さーん、今、来週からの撮影の宿泊予約をしてるんですけど」

「あっ、ありがとう、全員同じ宿でいけそう?」

「なんとか。経費削減のために灯さんと佐鳥さん、ダブルでいいですかね?」
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