クールな御曹司と愛され政略結婚
木場(きば)くんという、制作部の新人さんだ。
制作進行など、サポート業務を請け負ってくれている。
周囲のくすくす笑いをにらみつけながら、懸命に声を抑えた。
「…いいわけないでしょ」
「ツイン?」
「別の部屋!」
どうやら本気で言っていたらしく、えーっ? と不満そうな声をあげる。
「金がもったいないすよ」
「じゃあスタッフ全員二人組になってダブルでどうぞ」
「夫婦喧嘩したからって、当たらないでくださいよー」
これには私のデスクの人たちまでが、どっと笑った。
慌てて周囲を見回す。
えっ、夫婦喧嘩?
向かいの列の神さんが、にやにやしながら腕を組んだ。
「さっきの電話、俺ら打ち合わせ帰りに通りかかって、聞いてたんだよ、面白そうだから」
パチパチと、バカみたいにまばたきを返した。
さっきの電話って…灯との?
嘘でしょ!
「野々原も案外下手だなー、新婚で嫁寂しがらせちゃ二流だよね」
「まあこういう仕事してると、どうしてもねえ」
「そんなん最初からわかってるんだから、どうにかしなきゃ」
「どうにかって?」
「一緒にいられるときに、めちゃくちゃかわいがるとかさ」
「うわ、想像つかねー、いや、けっこうつくかも!」
灯がいないと、この手のからかいに歯止めをかける人がいないと知った。
どんどん広がる揶揄に、私じゃ太刀打ちできず、真っ赤になった顔を隠して、ひたすら耳をふさぐ。
もう! と心の中で罵倒した。
さっさと帰ってきてよ、灯!
* * *
私には3つ上の姉がいた。
いや、正確に言えば今でもいる。
でも数年前から行方がわからない。
制作進行など、サポート業務を請け負ってくれている。
周囲のくすくす笑いをにらみつけながら、懸命に声を抑えた。
「…いいわけないでしょ」
「ツイン?」
「別の部屋!」
どうやら本気で言っていたらしく、えーっ? と不満そうな声をあげる。
「金がもったいないすよ」
「じゃあスタッフ全員二人組になってダブルでどうぞ」
「夫婦喧嘩したからって、当たらないでくださいよー」
これには私のデスクの人たちまでが、どっと笑った。
慌てて周囲を見回す。
えっ、夫婦喧嘩?
向かいの列の神さんが、にやにやしながら腕を組んだ。
「さっきの電話、俺ら打ち合わせ帰りに通りかかって、聞いてたんだよ、面白そうだから」
パチパチと、バカみたいにまばたきを返した。
さっきの電話って…灯との?
嘘でしょ!
「野々原も案外下手だなー、新婚で嫁寂しがらせちゃ二流だよね」
「まあこういう仕事してると、どうしてもねえ」
「そんなん最初からわかってるんだから、どうにかしなきゃ」
「どうにかって?」
「一緒にいられるときに、めちゃくちゃかわいがるとかさ」
「うわ、想像つかねー、いや、けっこうつくかも!」
灯がいないと、この手のからかいに歯止めをかける人がいないと知った。
どんどん広がる揶揄に、私じゃ太刀打ちできず、真っ赤になった顔を隠して、ひたすら耳をふさぐ。
もう! と心の中で罵倒した。
さっさと帰ってきてよ、灯!
* * *
私には3つ上の姉がいた。
いや、正確に言えば今でもいる。
でも数年前から行方がわからない。