クールな御曹司と愛され政略結婚
今回の、灯との話が出たとき、私が真っ先に考えたのはこの姉のことだった。

行方知れずになっていなければ、差し出されるのは確実に、彼女のほうだった。

彼女はプライドを傷つけられることもなく、灯は過去の罪悪感にさいなまれることもなく、ふたりはごく自然に一緒になっただろう。

私は繰り上がり当選みたいなものだ。


灯と姉の仲のよさは、妹の私から見ても特別だった。

年齢も近いし、並んで歩いていれば完璧にお似合いだった。


今でも時折思い出す、一緒にいるところを見てしまったときの胸の痛み。

私に気づいて、ばつの悪そうな顔を見せる灯が、心から憎いと思った。



『お姉ちゃんとつきあってるの?』



一度だけ、好奇心に負けて、姉のいないところで灯に聞いた。

灯は、わざわざ聞くなとでも言いたげに、恥ずかしそうに顔をしかめて、『どうだろうな』とだけ答えた。


そのあいまいな返事は、はっきりイエスと言われるよりショックだった。

その当時は、それは妹分の立場からの焼きもちだと思っていたのだけれど。

その後、灯に抱いてもらって初めて、はっきりと灯への想いを自覚してからは、記憶から抹消してしまいたいほどの苦い想い出へと変化した。


──お姉ちゃんばかり。


世の姉妹の構図に漏れず、私は姉が、親からの信頼も期待も、周囲からの羨望も、すべてを持っているように思えて、複雑だった。

そんな姉が自慢でもあった、けれど重石でもあった。


──いつだって、お姉ちゃんばかり。


灯は今でも、姉を忘れていない。

面と向かって聞いたことなんてないけれど、聞いたらきっとこう言うんだろう。


『どうだろうな』と、きまり悪そうに。


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