クールな御曹司と愛され政略結婚
「私をほっとくと知らないよってことだよ」



いつもなら、こんな甘えた思わせぶりなこと、正面きって言わないのだけれど。

今はなんとなく許される気がして、反応をうかがってみた。

灯はきょとんとしてから、11時間も飛行機に詰め込まれてきたくせに清潔そのものの顔を、やけに照れくさそうに、居心地悪そうにしかめて笑い。



「やっぱりそのまま返すぜ」



そう言って私の肩を抱き寄せ、頬に柔らかなキスをくれた。



「ただいま」

「…お帰り」



灯の首に腕を回して抱きつくと、シャツの上からだと案外わからない筋肉の、ほどよい弾力を手のひらに感じる。

海外での仕事終わりなんかだと、現地スタッフのノリに影響されて、つい灯ともハグをしたりすることはある。

けどこういう、純粋に気持ちのこもった接触は、もしかしたら初めてで、みっともないくらいの鼓動が伝わってしまわないようにと慌てた。


あれ、なんだこれ。

なんで私たち、自然にこんなことしているの。


灯が反対側の頬にもキスを落として、私の頭をぐいぐいとなでながら、頬ずりというには荒っぽい仕草で顔を押しつけてくる。


どうしたの、灯。

出張で一週間くらい離れているなんて、普通によくあるじゃない。

なんて、さみしくなっていた私が言えることでもないけれど。


ねえ、やめてよ。

なんでそんな愛情たっぷりなの。


幸せすぎて、痛いんだってば。


 * * *


灯が睡眠から復活するころには午後2時になっていた。

結婚式から二週間たっているというのに、これがふたりで過ごす初めてのまともな休日だったりするんだから、笑ってしまう。


しかし私は今夜から泊りがけで、明日都内で行われるPRイベントの設営に行かなければならず、灯が寝ているのを邪魔しちゃ悪いと自分に言い訳し、掃除も洗濯もせずにその準備に没頭した。

これは私が単独で担当している仕事だ。

私も灯も、まれにこういう、ペアではない仕事も持っている。
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