クールな御曹司と愛され政略結婚
起きてくるなり灯は「腹が減った、食いには出ない」と偉そうにごねた。



「ずっと言おうと思ってたんだけど」

「今はそういうの聞きたくない」

「寝るとき、もう少しなにか着てくれない?」



ソファにだらりと横になった姿を、キッチンから眺める。

今はTシャツとスエットを身に着けてはいるが、ベッドに入るとき、灯は下着以外全部脱ぎ捨ててしまう。


同じベッドで寝る立場として言わせてほしい。

心臓に悪い。


灯はだらしなく寝転がったままリモコンをテレビに向けて、情報番組を探した。



「どちらかと言うと、お前のほうが着込みすぎだと俺は言いたい」

「どこがよ!」



私はたいてい、Tシャツにコットンのハーフパンツか、チュニック代わりになる丈の長いTシャツ一枚か、そんな恰好だ。

それ以上脱いだらおなかが冷えてしまう。

というより裸になってしまう。



「海堂と仕事の話、したか?」



うわ、話をそらした。

私は昨日作っておいたチキンライスを軽く温めて、卵をボウルに割り入れた。



「したよ、でもあんまり教えてもらえなかった。社長が二人ってことくらい」

「この期に及んで秘密主義かよ、今度呼び出してやろうかな」

「この間初めて業界メディアの取材受けたんだって。そのうち記事がwebに載るって言ってた。ゼロがようやくベールを脱ぐね」

「海堂が出てるのか?」

「ううん、そういうのはもう一人の社長の担当なんだって」



どうもIHでの火加減がつかめないままフライパンに卵を流し入れ、チキンライスを乗せ、トントンと叩いて端に寄せながら、適当なところでお皿の上にひっくり返す。

きれいなラグビーボール型のオムライスのできあがりだ。

塩もみしておいたみじん切りのキャベツを絞り、格子に切ったハムを加えてマヨネーズとお酢とお砂糖少々であえて、コールスローも完成。

ガラスの小鉢に盛ってプチトマトを添えて、終了。



「できたよ」

「ん」

「なんて書く?」
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